アート&茶器
浮世絵とお茶
CHAMART
浮世絵は、江戸時代の風俗画で、江戸を中心に庶民の生活を写した絵です。浮世絵の題材は、美人画、役者絵、春画、風景、花鳥、祭、相撲、おもちゃなど多岐に渡り、当時の庶民の嗜好や風俗を反映しています。
浮世絵は、筆で直に描いた肉筆画と印刷物として大量生産された木版画があります。木版画で大量生産されたことで、浮世絵は庶民の間に広まりました。
浮世絵には、茶園、茶屋、茶娘、茶の湯も描かれており、浮世絵を通して江戸時代のお茶のことを知ることができます。
駿州片倉茶園ノ不二(すんしゅうかたくらちゃえんのふじ)
葛飾北斎(1760-1849)の「冨嶽三十六景(ふがくさんじゅうろっけい)」は、日本各地から富士山を描いた画集です。その一つ「駿州片倉茶園ノ不二」は、笠を被った女性が茶摘みをし、男性や馬が茶葉を運搬する様子が描かれています。
茶屋
江戸時代、街道筋や寺社の境内などにお茶やお菓子を出す店が現れました。こうしたお店は水茶屋と呼ばれました。
客が寄り合いや商談に使えるようにと、奥座敷を設けている茶屋もありました。料理茶屋、角力茶屋、芝居茶屋などお茶の他に酒や料理を出す店や、遊女屋へ客を案内する引手茶屋や奥座敷で売春をする茶屋もありました。
茶葉を売る店は、葉茶屋と呼ばれていました。
歌川広重(1797-1858)の東海道五拾三次 「袋井 出茶屋ノ図(ふくろいでぢゃやのず)」「鞠子 名物茶屋(まるこめいぶつちゃみせ) 」、冨士三十六景「雑司かや不二見茶や(ぞうしがやふじみぢゃや)」など、茶屋が多く描かれています。
美人画と看板娘
浮世絵には美人画も多くあり、木版画で刷られたものは、ブロマイドのような役割を果たしていました。
美人画は、花魁、芸者、そして茶屋の看板娘も描かれています。美人の娘が働いている茶屋には、その娘を目当てに多くの客が押しかけました。
笠森お仙
鈴木春信(1725-1770)が描いた「明和三美人」は、笠森お仙、柳家お藤、蔦屋のお芳がモデルです。
お芳は楊枝屋ですが、お仙とお藤は茶屋の娘です。お仙は、東京谷中にある笠森稲荷の水茶屋の娘で、小さい頃から家業を手伝っていました。年頃になると、美人のお仙は看板娘になりました。
難波屋(なにわや)おきたと高島屋おひさ
喜多川歌麿(1753-1806)が描いた「寛政三美人」は、芸者の富本豊雛(とみもととよひな)、水茶屋の看板娘、難波屋おきたと高島屋おひさがモデルです。富本豊雛の代わりに、水茶屋の菊本おはんが「寛政三美人」として描かれることもありました。
当時、水茶屋の看板娘たちは、会いに行けるアイドルのような存在でした。
また歌麿は、お茶を焙じる美人画も描いています。
茶の湯
幕末から明治時代の浮世絵師、豊原国周(とよはらくにちか)(1835-1900)、楊洲周延(ようしゅうちかのぶ)(1838-1912)、水野年方(1866-1908)らが、浮世絵で茶の湯を描いています。
浮世絵の木版画の復刻版はヤフーオークションなどに出品されており、手頃な価格で購入できます。
参照:
佐藤 要人著(平成5年) 江戸水茶屋風俗考(初版) 美樹書房
大森正司、阿南豊正、伊勢村護、加藤みゆき、滝口明子、中村羊一郎編(2017) 茶の事典 初版第一刷 朝倉書店
江戸人文研究会編集、善養寺ススム 文・絵(2013) 絵でみる江戸の人物事典 廣済堂出版 第1版
喜多川歌麿著(1997) 太陽シリーズ1歌麿 平凡社 初版
山口桂三郎(1995) 浮世絵の歴史 美人絵・役者絵の世界 講談社学術文庫 初版第1刷