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本記事はネパリ・バザーロの協力を得て、CHAMARTが執筆しました。本記事のネパールの写真は、ネパリ・バザーロからご提供いただきました。写真の紅茶は、ネパリ・バザーロで販売しているカンチャンジャンガ農園の有機栽培紅茶です。
茶産地:ジャパ (Jhapa)、イラム (Ilam)、パンチタール (Panchthar)、ダンクタ (Dhankuta) 、テルハタム (Terhathum)など
お茶の種類:紅茶、緑茶など
摘み取り時期によるお茶の種類:
春摘み・スプリングフラッシュ:シーズン最初の2月から4月中旬に摘み取られる茶葉で、半発酵茶の烏龍茶のようなさわやかな味わいがありストレートで飲むのがおすすめです。
夏摘み・サマーフラッシュ:5月と6月に摘み取られる茶葉で甘い香りがします。
モンスーンフラッシュ:7月から9月に摘み取られる茶葉。
秋摘み・オータムフラッシュ:9月と10月に摘み取られ、茶葉は深みのある褐色です。ストレートだけでなくミルクティーもおすすめです。
ネパールでは主に紅茶を作り、海外へも輸出しています。注1 ネパールの茶産地はインドのダージリンに近いイラム郡やジャバ郡などです。
ネパールでは砂糖をたっぷり入れた甘い紅茶が飲まれており、牛や羊のミルクを入れたミルクティーも飲まれています。
ネパールのお茶の歴史
中国の清の皇帝から当時の為政者ジャンガ・バハドゥル・ラナ(1816-1877)にお茶の実が送られ、ネパールに植えられました。それが、ネパールの最初のお茶の木だと言われています。
その後、1863年にガジャラジュ・シンハ・タパ (Gajaraj Singh Thapa)大佐が、インドのダージリンに近いイラム郡にティーエステートを開きました。インドのダージリンでは1856年にお茶の栽培が始まり、茶産業が発展し国際的な市場で成功を収めました。しかし、ネパールの茶産業は上手くいきませんでした。
ネパールの茶産業を発展させるために、1966年にネパール政府がネパール茶開発公社を設立しました。
1978年から1990年代にかけて、ネパール茶開発公社は、茶業を国の産業として確立するために、換金作物としてお茶の栽培を小規模農家に奨励しました。当初ネパール産の茶葉は、ダージリンの製茶工場へ出荷されていましたが、1978年にイラムに国内最初の製茶工場が建設され、その後ジャパにも建設されネパール国内で、製茶されるようになりました。
1993年にはさらなる茶業お発展のために、全国茶コーヒー開発委員会 (National Tea and Coffee Development Board)が設立されました。
カンチャンジャンガ茶園
山岳地域の貧困
ネパールはヒマラヤの山々が美しい観光立国です。その一方で2006年までの10年間政府軍と反政府武装集団との間で紛争が起き、その後も続く政情不安、カースト(ヒンドゥー教の身分制度)や民族、貧困など多くの問題を抱えており、また医療や教育制度は十分に整っていません。特に山間部は急斜面が多く耕作できる土地が少ないため貧困率が高く、不作の場合、人々は生活のために借金をしたり土地を手放すこともあります。
標高1,800メートルの茶園
カンチャンジャンガ茶園は、世界で三番目に高いカンチャンジャンガ山の麓の標高1,300から1,800メートルに位置します。この茶園があるパンチタール郡はインドの茶産地ダージリンに隣接するネパール東部の山岳地域です。カンチャンジャンガ茶園へ行くには、まず首都カトマンズから小型飛行機に乗り約1時間でバドワプルへ行き、バドワプルから北へ車で約100キロ走ります。道中、標高約3,000mの峠を越え未舗装の道を運転し、フィディムという町にあるカンチャンジャンガ茶園があるまで約6時間かかります。
地元の人たちは、茶園や宿舎からフィデムの中心地までは約45分かけて歩いて行きます。
農家の人々による協同組合
カンチャンジャンガ茶園は、1984年に人々の生活向上を目的とし、パンチタール出身の政治家ディーパック・バスコタ(Deepak Prakash Baskota)氏と地元の100人以上の農家の人たちにより、協同組合組織として始まりました。農薬や化学肥料を使わず環境に配慮したお茶の栽培を実施し、有機認証を取得し、海外市場でお茶を販売しています。
この茶園ができたことで600人以上(女性が75%)を雇用し、お茶以外にもコーヒー、スパイス、ハーブなども作っています。またお茶の木を植えることで山の地滑りを防ぐ役割も果たしています。
カンチャンジャンガ茶園ができたことで、地域の人々に安定した収入をもたらし少しずつ生活環境は改善しています。しかし、行政支援が十分ではないため、労働者と家族の医療や子どもたちの教育環境はまだまだ厳しい状況です。家畜の世話や食事の用意など家事を行い、病気になった親の面倒をみなければならない子どもたちも多くいます。
茶園のさまざまな取り組み
カンチャンジャンガ茶園では、子どもたちへの教育支援以外にも、クリニックの運営、無償の住宅貸与、低利子の貸付などさまざまな取り組みを行っています。労働者に牛を供与するプロジェクトでは、労働者はミルクと牛糞を売り現金収入を得ることができます。茶園は労働者から牛糞を購入し茶園の肥料にします。
またダリットと呼ばれるカースト制の最底辺の人たちを積極的に雇用しています。ダリットは「Oppressed/Broken people 抑圧されたもの/壊されたもの 」という意味で、以前は「不可触民」と呼ばれていました。カーストによる差別は法律で禁止されていますが、ダリットの人たちへの偏見と差別は今なお根強くあり、カンチャンジャンガ茶園のこの取り組みは画期的なことです。
茶園労働者の子どもたちへの教育支援
フェアトレード団体ネパリ・バザーロの福祉部門を担う特定非営利活動法人ベルダレルネーヨは、2002年からカンチャンジャンガ茶園の労働者の子どもたちが幼稚園から高校卒業資格までの教育が受けられるよう、奨学金支援をしてきました。2015年からは 、カンチャンジャンガ茶園がこの奨学金制度を引き継ぎました。2007年からは、大学進学や職業支援など高等教育の奨学金支援を行なっています。この奨学金制度は、地域の子どもたちが医療などの専門知識を取得し、将来地域の人々へ貢献することを目的としています。
フェアトレード団体ネパリ・バザーロ:ネパールの子どもたちの教育と女性の自立支援を目的として、1991年に活動を開始しました。フェアトレードのビジネスを担う有限会社ネパリ・バザーロと福祉支援を担う特定非営利活動法人ベルダレルネーヨが、両輪となり活動しています。
ネパールの貧困問題改善のための経済的な自立支援として、ネパールの紅茶などの食品、服飾、雑貨などのフェアトレード商品の企画、製造販売などを行っています。また、東日本大震災の被災地や沖縄など日本国内では、障がい者や弱者への仕事づくりも行っています。さらにベルダレルネーヨと協働で、ネパールの子どもたちへの教育支援などさまざまな支援活動も行っています。
ネパリ・バザーロが販売するカンチャンジャンガ茶園の紅茶を購入し飲むことで、ネパールの茶園労働者の家族の生活改善や子どもたちの教育支援の一助になります。
ネパリ・バザーロ https://www.verda.bz
ベルダレルネーヨ http://nbazaro.jp/index.html
フェアトレード:開発途上国の原料や製品を適切な価格で購入し、生産者や労働者の生活改善と自立を目指す公平・公正な貿易
*本記事では、Kanchanjangha Tea Estate & Research Centre (KTE)の「Kanchanjangha」はカンチェンジュンガではなく、ネパリ・バザーロのサイトに倣いカンチャンジャンガとします。
サイト内関連記事「世界のお茶の生産状況」「2016年一人当たりのお茶の消費量」「茶リティー フェアトレード団体ネパリ・バザーロ」
注1:
The Food and Agriculture Organization of the United Nations
http://www.fao.org/home/en/
FAOSTAT http://www.fao.org/faostat/en/#home Tea
参照:
Government of Nepal, National Tea and Coffee Development Board
https://www.teacoffee.gov.np
TEA HISTORY https://www.teacoffee.gov.np/teainfo/teahistory
大森正司、阿南豊正、伊勢村護、加藤みゆき、滝口明子、中村羊一郎編(2017) 茶の事典 初版第一刷 朝倉書店
荒木安正、松田昌夫著(2002) 紅茶の事典 初版 柴田書店
磯淵猛著(2008) 紅茶の教科書 初版 新星出版社
角山栄著(2018) 茶の世界史 改版再版 中央公論新社
アラン・マクファーレン、アイリス・マクファーレン著(2007) 鈴木実佳訳 茶の帝国: アッサムと日本から歴史の謎を解く第一刷 知泉書館
フェアトレード団体ネパリ・バザーロhttps://www.verda.bz
KTE Kanchanjangha Tea Estate https://www.organickte.com
関西大学学術リポジトリ Kansai University Repository
https://kansai-u.repo.nii.ac.jp
Gurung Roshan (2012) インド周縁世界における茶栽培とティー文化の伝播 : ネパール・イラム郡を中心に (Diffusion of Tea Cultivation and Tea Culture in the Periphery of Indian Sub-continent) 史泉
http://hdl.handle.net/10112/00023672
日本国外務省 https://www.mofa.go.jp/mofaj/index.html
ネパール連邦民主共和国
https://www.mofa.go.jp/mofaj/area/nepal/index.html
*本記事でご紹介した情報が、変わっている場合があります。本記事に関して間違った情報、新しい情報、追加すべき情報などお気付きの点がありましたら、CHAMARTまでご連絡いただけると幸いです。
*当サイトのコンテンツは、「日本のお茶」と「世界のお茶」の全てについて記載しているわけではありません。また、各記事は、執筆者の個人的な経験や感じたことが表現されています。