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オランダの土壌から生まれたお茶
ベルギーの国境に近いオランダ南部ズンデルトには、お茶を栽培・製造し、販売する会社Local Tea (ローカルティー) があります。ローカルティーでは、ガラス製の温室内で約170万本のお茶の木をポット栽培しています。栽培総面積は1.7ヘクタールです。
ローカルティーの始まり
ズンデルトのトマト農家の息子のヨハン・ハンセン(Johan Jansen)氏が、2008年に中国へ行きお茶に出逢い、オランダでお茶の栽培をすることを思いつきました。
ヨハンさんは、投資家から支援を受け、オランダでお茶の苗木の栽培事業を始めます。中国など世界各地の茶産地からお茶の苗木を輸入しますが、オランダの寒さと乾燥に耐えられず、ほとんどの苗木が枯れてしまいました。しかし、8年かけて品種改良を続け、オランダの気候に耐えられる品種を作ることができました。そして、お茶の木と植物の苗木を園芸用として栽培・販売する事業を始めました。お茶の苗木は消費者に育て方も説明し、販売しました。
この事業は軌道に乗り、その後ヨハンさんは新たな事業を始めるために、お茶の投資家に売却しました。
元大手企業紅茶部門から転職したゼネラルマネージャー
現在、ワウター・エッケルマンス(Wouter Eckelmans)氏が、責任者としてローカルティーの事業を統括しています。
ワウターさんは、以前は複数の大手企業の紅茶部門のマーケティング責任者として働いていました。2021年にローカルティーの投資家にスカウトされ、ゼネラルマネージャーとして働くようになりました。
ワウターさんは、大手企業で働いていた時には、スリランカの茶園を訪問したこともあります。スリランカやインドでは、植民地時代以降改善がされてきていますが、茶園労働者の労働環境は現在も厳しい状況が続いています。
ワウターさんは、企業が利潤のみを求めるだけでなく、自然環境や労働環境に配慮し、高品質の商品を作り、それを消費者に伝えること、そして消費者が生産過程を知った上で商品を選択する重要性を話してくれました。
野菜栽培のようなお茶栽培
ローカルティーの温室でのお茶のポット栽培は、まるで野菜を栽培しているかのような印象です。
温室内の壁と天井はガラスが使用されています。太陽光のみを使い、燃料や電気で温室内を温めることはしていません。筆者が2024年3月中旬にローカルティーを訪れた際、温室内の温度は約26度でした。
温室内の温度はコンピューターで管理されています。設定温度以上になると天井の一部が自動的に開き、温室内の温度調整をしています。
温室栽培であっても害虫が発生するため、ローカルティーでは農薬は使用せず、益虫を使用し害虫対策をしています。また化学肥料も使用していません。
ポット栽培のお茶の木
ポット栽培のお茶の木は、園芸用として、オランダ国内だけでなく、フランス、スイス、北アイルランド、ポーランド、セルビアでも販売されています。
飲料用の茶葉は、主にティーバッグに加工し、オランダ国内の主要なスーパーやレストランに販売しています。
ティーバッグは、石油などの化石資源でできたプラスチックではなく、ポリ乳酸 (Polylactic Acid)という、とうもろこしなどの植物由来の生分解する素材を使っています。
お茶摘みは3月下旬から9月頃まで計5〜6回行っています。新芽を摘み取った後、次の新芽が出るまで待ち、再び新芽を摘み取りこれを繰り返します。
ローカルティーでは、立ったまま一人で操作できる移動式のお茶刈り機を使用しています。茶葉を刈り取ることで、スタッフから腰痛が辛いという訴えは今のところないそうです。
温室内は年間を通して温かいためか、ローカルティーのお茶の葉は、日本の平均的なお茶の葉と比べると大きいです。ローカルティーの大きな葉の長さを測ってみたところ、約10cmありました。
地産地消の意義
オランダでオランダ産のお茶を飲むことにより、「最大CO2 96%、エネルギー99%、水99%を節約できる」とローカルティーは考えています。
ローカルティーのお茶をオランダ国内で販売する場合、外国産のお茶と比較すると、原材料の仕入れ地から消費者に届くまでのサプライチェーンが短くなり、その結果、輸送に必要な燃料とCO2の排出量が少なくなります。燃料や電気を使わず太陽光だけで温室を温め、閉鎖型水システムを使用し撒いた水を再利用することで、資源を節約できます。
ローカルティーは地元のお茶を飲むことが、消費者と環境の両方に良い影響を与え、ひいては持続可能な社会に繋がると提唱します。
ローカルティーのお茶は、スーパーで売られているインド、スリランカ産のお茶と比較すると、約2倍の価格です。そのため、ローカルティーの主な購買者は、環境意識が高く、比較的生活に余裕がある人たちだと言えます。
独学で製茶技術を習得
ローカルティーでは、緑茶、紅茶、烏龍茶、フレーバーティーを作っています。以前は、大きな鉄板を使い手作業でお茶を製茶していましたが、現在は機械を使っています。
製茶担当のフランク・ヴァー・ボーベン(Frank Ver Boven)氏は、前職ではきゅうりを栽培しており、製茶の知識と経験は全くありませんでした。フランクさんはローカルティーで働くようになり、製茶の本を読み、試行錯誤の末、独学で製茶方法を習得しました。ローカルティーで使用している製茶機械はドラム式殺青機、揉捻機と乾燥機です。
ローカルティーの緑茶の作り方は、中国や韓国の釜炒り緑茶の作り方に似ています。まず刈り取った茶葉を萎凋し、ドラム式殺青機で茶葉に熱を加え、揉捻機で揉み乾燥させます。緑茶の水色は黄金色で、あまり香りはありませんが、苦味が少なく半発酵茶のような風味でした。
ベルギーの土壌から生まれたお茶
ローカルティーでは、隣国ベルギーの契約農家が栽培したお茶も販売しています。ベルギーの茶園では約6万本のお茶の木が栽培されています。
ローカルティーのフレーバーティーは種類が豊富で、柑橘類、カモミール、生姜、シナモン、グローブ、ラズベリー、いちごなど自然の素材のみを使っています。
オンラインショップでは、購入代金の一部が身体障がい者団体へ寄付されるお茶も販売しています。
今後、ローカルティーでは高品質の日本式の蒸し製煎茶や抹茶の製造も計画しているそうです。
ガラス製の温室、ビニールハウス、屋外では、お茶の木以外の園芸用の苗木も数多く栽培されていました。
サイト:https://www.localtea.com/
住所:Gaardsebaan 11c, 4881 ME ZUNDERT, Nederland オランダ
最寄駅:鉄道駅BredaからZundert行きバス115に乗りバス停Zundert, W. Passtoorsstraatで下車。Zundert, W. PasstoorsstraatからLocal Teaまで徒歩で約30〜40分。
営業時間:
定休日:
Webshop: https://www.webshop.localtea.com/
*CHAMARTとご縁があったお店を紹介しています。本サイトでご紹介した情報が変わっている場合や、臨時定休日もあります。そのため、お店を訪問される際は、営業日・時間、アクセス等の詳しい情報について、お店のサイトをご確認下さい。
画家ゴッホが生まれた町 ズンデルト
ローカルティーがあるズンデルトは、画家フィンセント・ファン・ゴッホが生まれた町です。
ゴッホの生家は残っていませんが、生家跡地にゴッホの家博物館(Vincent van GoghHuis)が建てられています。音声ガイドを聞きながら館内を見学し、ゴッホの生い立ちを知ることができます。音声ガイドは、英語や日本語など複数の言語が用意されています。
ミュージアムショップでは、ローカルティーのお茶が販売されていました。
https://www.vangogh-drenthe.nl/
筆者がローカルティーを訪問したきっかけ
インターネットでローカルティーのことを知り、機会があればローカルティーを訪問したいと思っていました。2024年3月に、CHAMARTが食の展示会で静岡県産のお茶を出展するためにベルギーを訪問した際に、ローカルティーを訪問することができました。ベルギーのブリュッセルからオランダ ズンデルトまでは電車とバスで行くことができます。
お忙しい中、ワウターさんがローカルティーを案内して下さいました。
ありがとうございました。Hartelijk dank.