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中東・中央アジア

本記事の執筆・写真提供:フォトグラファー小松由佳 https://yukakomatsu.jp/

文明発祥の地、シリア
シリア・アラブ共和国。現在内戦が続くこの国は、かつて文明発祥の地として、また古代からアジアとヨーロッパを結ぶ中継地として栄えた地です。西側は地中海に面し、北側には大河ユーフラテス川が流れています。また国土の大半は広大なシリア沙漠に覆われています。世界最古の街とされる首都ダマスカスや、商業都市アレッポなど、国内には6つの世界遺産が登録されており、世界中から観光客を集める国でもありました。国民の9割がアラブ民族、また8割がムスリムであるため、アラブ民族の文化と、イスラムの宗教的特質が合わさって独特の文化を形成しています。

2009年シリア パルミラ郊外の砂漠 放牧の仕事を終え、お茶を飲んでくつろぐ男たち
写真提供:小松由佳 https://yukakomatsu.jp

ラーハ (ゆとり・休息)
アラビア語に「ラーハ」という言葉があります。直訳すると、「ゆとり」「休息」を意味し、家族や友人と過ごす、ゆったりとした団欒の時間を指します。アラブ社会には「ラーハをどれだけ持つことができるかが、豊かな人生かどうか」という言葉もあり、ラーハこそが人生の至福の時間とされてきました。このラーハの時間に欠かせない存在が、お茶です。

2015年トルコ レイハンル 木陰に集うシリア難民の家族
写真提供:小松由佳 https://yukakomatsu.jp

渋くて甘い紅茶「シャーイ」
シリア人の家にお邪魔すると、小ぶりなグラスになみなみと注がれて最初に出されるのが「シャーイ」と呼ばれる紅茶。シリアでは「お茶」といえば、紅茶を指します。食事の後に、ひと仕事始める前や後に、友人や家族とのおしゃべりの時間に、1日平均して10杯以上お茶を飲むことも珍しくありません。

2009年シリア パルミラ郊外の砂漠 焚き火を焚いて作った甘〜いお茶
写真提供:小松由佳 https://yukakomatsu.jp

さて、ではこの「シャーイ」、一体どんな味なのでしょう。一言で言えば、激甘、激シブの紅茶です。これでもかというほど砂糖をたっぷりと入れ、さらに茶葉は、渋味が強いスリランカ産の特定のお茶を使用します。シリア人の子供たちは家事もよく手伝いますが、子供がまず台所の仕事として学ぶのはお茶の作り方だそうで、10歳くらいになると、ほとんどの子供が自分でお茶を作れるようになります。

2010年シリア パルミラ 夕暮れどき、ナツメヤシの乾いた葉を燃やしお茶を作る
写真提供:小松由佳 https://yukakomatsu.jp

シャーイの作法
日本人のお茶にも作法があるように、シリア人のお茶にも作法があります。まず、ヤカンを綺麗に洗い、たっぷりの水を注ぎます。そしてヤカンを火にかけたら、すぐに砂糖を大量に加えます。その量は家庭によってまちまちですが、砂糖がそれ以上溶けなくなる限界に近い量を加えるのが良いそうです。もはやお茶の味より砂糖の味が際立つのでは?と不安になりますが、大丈夫です。渋みの強い茶葉も大量に使用するため、大量の砂糖と茶葉の意外なハーモニーが楽しめます・・・!

なぜお湯が沸騰する前に砂糖を加えるかですって?
それは、水からゆっくりと砂糖を溶かすことで、砂糖の味がまろやかになるからだそうです。さらに言えば、ガスの火でお茶を作るより、焚き火で作るのが美味しいとされています。さらに薪に使用する木材は、オリーブが最上のものとされています。焚き火で作るお茶は、木の香りがお茶に染み込み、それはそれは美味しいお茶になるとか。火や薪の種類にまでこだわるのが、シリア人のすごいところ。ちなみにシリア人は火を焚くのが大好きです。首都ダマスカスのような都会でも、大通りや裏通りで、人々がナスや肉を焼いたり、お茶を作ったりする光景をよく見かけます。火を焚いてお茶を作るのも、ごく普通のことなのです。

2015年トルコ オスマニエ 家の屋上で火を焚くシリア難民の男性
写真提供:小松由佳 https://yukakomatsu.jp

さて、砂糖が溶けきってお湯が沸騰し、ヤカンの口からヒュー!っと白い煙が出てきたら、いよいよ主役の登場です。摘み取った茶葉そのものの形が残る、武骨でゴロゴロした茶葉を、ヤカンのお湯がすっかり隠れるくらい投入します。えっ、もったいないって?いえいえ、そんなことを言ってはいけません。シリア人はお茶づくりに妥協はしないんです。何しろこのお茶、みんなが集って楽しく過ごすために飲まれるお茶なんですから。
茶葉を入れて2分ほどしたら、火を止め、さらに2分ほど置いてお茶が完成です。人と人とが集う場で欠かすことのできない「シャーイ」の出来上がりです!

シャーイには激甘アラブ菓子
さらにお茶の時間に愛されるのが、激甘のアラブ菓子。代表的なものに、パイ生地にナッツを挟み、砂糖シロップをかけた「パクラワ」やセモリナ粉で焼いたスポンジケーキのシロップ漬け「バスプーサ」があります。こうした甘いお菓子と甘い「シャーイ」をいただき、おしゃべりに花を咲かせるお茶の時間は、シリア人にとって最高の贅沢と言えます。

2021年トルコ アクチャカレ 激甘だが癖になる味!
スポンジケーキのシロップ漬け「バスプーサ」
写真提供:小松由佳 https://yukakomatsu.jp

シリア難民、変わらぬお茶の時間
そんなこだわりのお茶の文化を持つシリアですが、2011年から始まった内戦により、多くの難民、死者が出ました。かつての人口2240万人中、約50万人が死亡、国民の四分の一に相当する約560万人が国外に逃れ、難民となりました。国内情勢も依然不安定なままで、人々は先行きを見出せぬまま、異国で避難生活を続けています。

2018年トルコ レイハンル 朝食をとりながらお茶を飲むシリア難民の家族
写真提供:小松由佳 https://yukakomatsu.jp

写真の一家はシリアで空爆に遭い、母親(左側)は右足を付け根から切断する重傷を負いました。現在、トルコレイハンルで治療を受けながら義足をつけて生活しています。

560万人のシリア難民のうち、8割に当たる380万人がトルコで避難生活を送っています。トルコはシリアとは民族や言語、文化も異なり、多くのシリア難民が異郷での生活に馴染めず、多くが困窮しています。さらに新型コロナの流行により、その苦境に拍車がかかっています。それでも人々は、シリア人コミュニティを形成し、その相互扶助の中で生きようとしています。

2020年トルコ アクチャカレ 朝食のメニュー、甘いお茶もセットだ
写真提供:小松由佳 https://yukakomatsu.jp

お茶の文化も健在です。とにかく人と人とが顔を合わせ、集い、語らうことから何かが始まるシリア人。共にお茶を飲み、食事をして交流を深めることが大切な習慣です。難民となっても、こうした生きる上での根幹は変わることはありません。その一つの形として、ゆったりと寛ぎながら、ここに生きていることを味わうお茶の時間が、人々の日常に存在し続けています。

2021年トルコ アクチャカレ
夕食後、中庭で涼しい風を楽しむアラブ系トルコ人の家族
写真提供:小松由佳 https://yukakomatsu.jp

写真説明:2021年トルコ アクチャカレ
夕食後、中庭で涼しい風を楽しむアラブ系トルコ人の家族、隣に住むシリア難民の家族も一緒です。中央に見えるのは、トルコ南部で「サマウル」と呼ばれるお茶づくりの道具です。内側で火を焚いて、煮出したお茶とお湯とを二層に分けて作っておき、いつでも熱々のお茶をいただきます。

小松 由佳(こまつゆか)
フォトグラファー。1982年秋田県生まれ。山に魅せられ、2006年、世界第二の高峰K2 (8611m / パキスタン)に 日本人女性として初めて登頂。植村直己冒険賞受賞。次第に風土に生きる人間の暮らしに惹かれ、草原や沙漠 を旅しながらフォトグラファーを志す。2012年からシリア内戦・難民をテーマに撮影。著書に『人間の土地へ」』 (集英社インターナショナル/2020年)。2021年、第8回山本美香記念国際ジャーナリスト賞受賞。
https://yukakomatsu.jp

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#シリア #シリアのお茶 #シャーイ

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