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南アジア

バター茶
ヒマラヤ山脈のチベット高原地域ではバター茶が飲まれています。チベットのバター茶はヤクのバターで作る塩味のお茶です。
ヤクは北インドやチベット高原一帯に生息するウシ科の哺乳類です。野生のヤクもいますが、多くは家畜として飼育されています。ヤクは、黒く長い毛をまとった水牛のような姿をしています。糞は燃料、肉は食用、毛皮は防寒着、ミルクは飲用だけでなくチーズやヨーグルトにも加工でき、ヤクはチベットの人たちにとって大切な生活の糧です。 

チベットバター茶 写真提供:松下智

バター茶には、磚茶(たんちゃ・だんちゃ)と呼ばれる中国茶を使います。
磚茶は黒茶、紅茶、緑茶の粉茶または下級茶を蒸し、型に入れ、機械で圧力をかけて固めて干したものです。磚茶をナイフなどで削り必要な量の茶葉を用意します。そして、鍋でお湯を沸かし、削った茶葉を入れます。チベット高原の平均標高は、富士山の山頂よりも高い四千メートル以上です。標高が高いと、平地に比べてお湯が早く沸騰するため、茶葉を長い時間煮出します。

中国チベット自治区 チベット高原 (1988年)

茶こしで茶葉を取り出したお茶、ヤクのバター、そして岩塩をドンモと呼ばれる細長い木桶に入れます。ドンモ専用の攪拌棒を使い上下に動かし、お茶とバターをしっかり攪拌します。岩塩の代わりにプントと呼ばれる天然のソーダを入れることもあります。
*磚茶は、黒茶、紅茶、緑茶などの粉末や下級茶を砕いて蒸し、型に入れて機械で圧力をかけて固めたお茶です。

インドダージリン ドンモと攪拌棒 (2019年8月)

バター茶は中国のチベット自治区、ブータン、インドのラダック、ダラムサラやダージリン、ネパールなどでも飲むことができます。インドなどヤクが生息していない地域では、牛乳と牛乳のバターを使いバター茶を作ります。

筆者(CHAMART)がインドのダージリンを訪問した際に、チベット系住民の女性2人に牛乳を使ったバター茶を作ってもらいました。この女性たちの両親は中国からインドに亡命しました。彼女たちはインドで生まれ、その後もインドで暮らしています。

磚茶を削る(2019年8月 インドダージリン )

攪拌してできたバター茶はポットに入れてます。カップに注いだら一杯目は神に捧げます。

インドダージリン(2019年8月)
インドダージリン 牛乳を使ったバター茶(2019年8月)

東京にあるチベットレストラン&カフェ タシデレで牛乳のバター茶をいただくことができます。

魔法瓶に入ったバター茶
筆者(CHAMART)は30年以上前の1989年に中国西蔵自治区を旅した時、初めてバター茶を飲みました。旅の途中で知り合ったチベット人家族が魔法瓶に入れた熱いバター茶をふるまってくれました。当時、筆者(CHAMART)はバター茶がどんな味かも知らず、甘いミルクティーを想像していました。カップを口元へ近づけると、ヤクのものと思われる獣臭にたじろぎ、バター茶を口に含んだ瞬間、その塩味に驚いてしまいました。しかし、せっかくお茶を振る舞ってくれたのに途中で飲むのを止めることはできません。覚えたてのチベット語で「トゥジェチェ(ありがとう)」とお礼を言い飲み続けました。そのうち匂いは気にならなくなり飲み干していました。
チベットは標高が高く、空気が乾燥しているため、肌も乾燥します。バター茶が乾燥した肌に染み渡り、潤いが戻るようでした。

中国西蔵自治区ラサ (1989年)

本記事の現地のお茶事情は、筆者(CHAMART)がインドと中国西蔵自治区を訪問した時の取材に基づきます。

サイト内関連記事「世界のお茶の生産状況」「2016年一人当たりのお茶の消費量」「チベットレストラン&カフェ タシデレ

参照:
大森正司、阿南豊正、伊勢村護、加藤みゆき、滝口明子、中村羊一郎編(2017) 茶の事典 初版第一刷 朝倉書店
荒木安正、松田昌夫著(2002) 紅茶の事典 初版 柴田書店
高野實、谷本陽蔵、富田勲、中川致之、岩浅潔、寺元益英、山田新市 執筆 (社)日本茶業中央会監修 (2005) 緑茶の事典 改定3版 柴田書店

#チベット #バター茶 #チベット高原 #西蔵 #西蔵自治区 #ドンモ #チベット

*本記事でご紹介した情報が、変わっている場合があります。本記事に関して間違った情報、新しい情報、追加すべき情報などお気付きの点がありましたら、CHAMARTまでご連絡いただけると幸いです。
*当サイトのコンテンツは、「日本のお茶」と「世界のお茶」の全てについて記載しているわけではありません。また、各記事は、執筆者の個人的な経験や感じたことが表現されています。