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ヨーロッパ・ロシア・コーカサス

産地:イングランド コーンウォール、スコットランド、ウェールズ グラモーガン渓谷
お茶の種類:紅茶、緑茶、烏龍茶、白茶、ほうじ茶、フレーバーティー
イギリスはイングランド、ウェールズ、スコットランド、北アイルランドの4つの地域からなる連合王国です。北アイルランドを除く三地域に商業的な茶園が一軒ずつあります。
イギリスは北海道よりも緯度が高いものの、北大西洋海流と偏西風の影響で、気候は比較的穏やかです。 それでも、お茶の栽培は決して簡単ではありません。各茶園は、さまざまな工夫と努力を重ねながら、お茶づくりに取り組んでいます。

17世紀に伝わり大流行したお茶
17世紀にイギリスにお茶が伝わり貴族の間で喫茶文化が広まりました。その後庶民の間にも喫茶文化が広がり18世紀にはお茶が大流行しました。19世紀になり、イギリスはインドやスリランカなど植民地支配した地域で、プランテーション方式(資本制大規模農園)によるお茶の栽培しました。トワイニングやリプトンなど世界的な老舗のお茶専門店はイギリスで生まれました。

歴史を揺るがすお茶
イギリスとお茶が関わっている世界史に残る事件が2つあります。それはボストン茶会事件(1773)とアヘン戦争(1840 – 1842)です。
ボストン茶会事件
イギリスが植民地支配をしていたアメリカに対してお茶に重税をかけたことで、それに不満を持ったボストン市民の一団が起こしたイギリスへの反抗運動がボストン茶会事件です。ボストン市民の一団は、ボストン港に入港していたイギリス東インド会社の船に乗り込み、積荷の茶箱を海に投げ入れました。このイギリスへの反抗運動が広がり、アメリカ独立戦争(1775 – 1783)へ発展していきました。
アヘン戦争
イギリスが中国から輸入するお茶が激増し、イギリスは支払いの銀が不足したため代わりにインド産のアヘンを中国に売りつけるようになりました。中国国内ではアヘン中毒者が増え清王朝がアヘンを取り締まりイギリスとの通商を禁じたことで、イギリスが軍を派遣し戦争が起きました。イギリスが勝利し、清王朝にとって不平等な「南京条約」が締結され通商が再開しました。その後、イギリスは中国よりインドからお茶を多く輸出するようになり、また中国はイギリスよりも、ロシアにより多くお茶を輸出するようになりました。

スリランカのセイロンティーミュージアムの展示物 (2019年12月)

国民的飲料のお茶
現在もイギリスではお茶がよく飲まれています。FAOの調査では、2016年度の一人当たりのお茶の消費量は約1.6キロで世界第5位です。注1
イギリスでは砂糖を入れただけの紅茶、ミルクティーどちらもよく飲まれています。ミルクティーは紅茶にミルクを入れるかミルクに紅茶を入れるか論争があるほどです。

自宅でティータイム、ミルクティーとスコーン

多種多様なお茶
イギリスには数多くのお茶専門店やブランドがあります。ウィッタード・オブ・ チェルシーなどおしゃれなパッケージのものが多くお茶の種類も多種多様です。フレーバーティーは緑茶がベースになっているものが多いです。日本のフレーバーティーに比べると香りは強いです。スーパーではお手頃な価格のティーバックの紅茶、緑茶、フレーバーティーが購入できます。
pekoeteaのスコットランド産のウィスキーの香りを着けた紅茶は、ウィスキーの芳醇な香りと風味がします。まるでウィスキーのようなお茶です。

pekoetea ハイランドウィスキーティー

アフタヌーンティー
イギリスのお茶の習慣といえば、午後の遅めの時間に紅茶を飲みながらサンドイッチ、ビスケット、スコーン、ケーキなど軽食を食べるアフタヌーンティーです。アフタヌーンティーの始まりは17世紀末頃から始まったイギリスの社交界でのお茶会です。お茶会ではお菓子やチョコレートが用意され、おしゃべりを楽しみました。
1840年代に第7代ベッドフォード公爵夫人アンナ・マリア(Anna Maria, the Seventh Duchess of Bedford)によってアフタヌーンティーの習慣が確立したとも言い伝えられています。アンナの夕食は夜の8時か9時頃で、昼食から夕食の間までお腹が空くのと、午後の遅い時間になると「沈んだ気持ち(a sinking feeling)」になりそれを紛らわせるために、紅茶と軽食を用意させました。

ロンドン アフタヌーンティー(2019年8月)

アフタヌーンティー
イギリスにはティーハウスがたくさんあります。カジュアルなティーハウスでは、クロテッドクリームとジャム付きのスコーンと紅茶のセット、高級ホテルや高級デパートなどのティールームでは、サンドイッチ、スコーン、ケーキ、フルーツなどが三段のケーキスタンドに盛り沢山に載った豪華なアフタヌーンティーが楽しめます。クロテッドクリームは乳脂肪分の高い牛乳を凝固したものです。

イングランド南部レイにあるティーハウス(2009年9月)

ハイティー 
アフタヌーンティーは上流階級から生まれたお茶の文化ですが、ハイティーは労働者階級から生まれたお茶の文化で夕食を意味します。
イギリスでは18世紀後半になり、お茶の輸入税が引き下げられお茶の価格が下がり労働階級の人々もお茶を飲めるようになりました。炭鉱や工場での仕事を終え帰宅した労働者らは、夕方6時頃になると自宅で濃いめの紅茶に砂糖とミルクを入れたミルクティーを飲みながら夕食を食べるようになりました。夕食はチーズトースト、肉やニシン料理、パイ、ケーキなどボリュームのあるものです。
ハイティーの呼び方の由来は諸説あり、その一つはテーブルの高さです。アフタヌーンティーは応接間の装飾を施したテーブルで行われますが、ハイティーは夕食としてダイニングテーブルで椅子に座って行います。ダイニングテーブルは応接間のテーブルより高さがあるためハイティーと呼ばれるようになった説です。
その後、週末など家族や友人との社交や懇親の場がハイティーと呼ばれるようになりました。

イギリス産のお茶
イギリスの正式名称はグレートブリテン及び北アイルランド連合王国と言い、イングランド、ウェールズ、スコットランド、北アイルランドの4つのカントリーからなる連合王国です。
イギリスの正式名称はグレートブリテン及び北アイルランド連合王国と言い、イングランド、ウェールズ、スコットランド、北アイルランドの4つの地域(カントリー)からなる連合王国です。
北アイルランドを除く三地域に商業的な茶園が一軒ずつあります。
イギリスは北海道よりも緯度が高いものの、北大西洋海流と偏西風の影響で、気ヨーロッパ大陸ほど寒さは厳しくありません。 それでも、お茶の栽培は決して簡単ではありません。各茶園は、さまざまな工夫と努力を重ねながら、お茶づくりに取り組んでいます。

スコットランド、キノーディーウォールドーガーデン(2021年3月) 
Kinnordy Walled Garden in Angus, Scotland in March 2021
写真提供:Tea Gardens of Scotland https://www.facebook.com/teagardensofscotland

The Tea Gardens of Scotland ティーガーデンオブスコットランド
2016年にスコットランドで9人の女性たちが「The Tea Gardens of Scotland」を立ち上げ、各メンバーの庭園を茶園に変えお茶の栽培を始めました。
ネパールやジョージアの耐寒性のある品種のお茶の木を試植後、1年目と2年目に約41,000本のお茶の木を農業用の温室に植えました。3年目に茶園にお茶の木を植え替えました。

温室のお茶の木 (2021年1月) 
写真提供:Tea Gardens of Scotland https://www.facebook.com/teagardensofscotland
羊毛を敷草として使う(2021年10月) Megginch Tea Garden in Oct. 2021
写真提供:Tea Gardens of Scotland https://www.facebook.com/teagardensofscotland

有機肥料を使い、また寒さ対策のためにお茶の木の畝間に羊毛を敷くなどさま様な試みもしています。スコットランドで商業的なお茶栽培には、ネパールのイラム州と旧ソビエト連邦のジョージアから取り寄せた寒さに強い品種のお茶の種を選びました。
ティーガーデンオブスコットランドのお茶が、スコットランドで栽培・生育されたことを証明するために、アバディーン大学とThe Scottish Tea Factory(スコットランドティーファクトリー)は協働で調査を行いました。

pekoeteaのKINNETTLES GOLD

メンバーの1人の茶園のお茶KINNETTLES GOLDは、スコットランドのティーショップpekoeteaで取り扱っており、オンラインショップでも購入できます。KINNETTLES GOLDの紅茶は、烏龍茶のような淡い朱色でフルーティーな香りがします。
メンバー全員の茶園で栽培された茶葉をブレンドしたNine Ladies Dancing(ナインレディースダンシング)は、イギリスの高級老舗百貨店フォートナム&メイソンで販売されています。


ナインレイディーズダンシング
写真提供:Tea Gardens of Scotland https://teagardensofscotland.co.uk

The Tea Gardens of Scotlandのサイトのトップページの動画は日本語の字幕で視聴することができます。
https://teagardensofscotland.co.uk

トレゴスナン茶園
トレゴスナン茶園はイギリスの南西部のコーンウォールにあります。トレゴスナンはコーンウォール地方の言葉で「The house at the head of the valley」 (丘の上の領主の家)という意味です。14世紀からボスコーエン一族がトレゴスナンの広大な敷地、庭園、屋敷を管理してきました。
トレゴスナンでは200年前から椿が栽培されています。椿と同じツバキ科のお茶の木(チャノキ)が栽培できるかもしれないとインドや日本で調査を行い、1999年にトレゴスナンでお茶の栽培が始まりました。試行錯誤を重ね2005年に28gのお茶を作ることができ、イギリス初の国産紅茶が誕生しました。その後、毎年お茶の木を栽培し20,000本までになりました。
トレゴスナン産だけのお茶、インド産や中国産とブレンドしたお茶などが販売されています。
トレゴスナンではお茶の栽培だけでなく養蜂なども行われています。またコテージなど宿泊施設もあります。

英国トレゴスナン紅茶
コーンウォール産とアッサム産の紅茶をブレンドしたGREAT BRITISH TEA

ウェールズ ピーターストンティー
ピーターストンティーは、ウェールズ南部のグラモーガン渓谷にある有機栽培の茶園です。露地栽培とポリトンネルでお茶を育てています。

ポリトンネル (2925年5月)

ピーターストンティーでは、釜炒り製と蒸し製の緑茶、紅茶、烏龍茶、コンブチャ(紅茶キノコ)を製造・販売しています。また、自園のお茶の種と苗木も販売し、有料で茶園見学ツアーやお茶作りワークショップも年に数回開催しています。
ウェールズの気候にあったお茶の木を作るために、苗木からではなく自園の種からお茶を育ています。
また、お茶だけの単一作物ではなく、複数の農作物や樹木を混植するアグロフォレストリー(森林農業)を取り入れ、茶園の中に小さな森を作っています。木々は、お茶の木を強い日差しや強風から守る役割を果たしています。ポリトンネルの出入り口は常に開放されているため、蝶などの昆虫が自由に出入りでき、昆虫の糞によって、茶園の土には微生物や菌類が繁殖し、豊かな土壌が育まれます。 さらに、昆虫による自然受粉が行われ、お茶の木には種が実ります。
お茶の木が枯れても、お茶の木が持つ再生力「レジリエンス(Resilience)」―植物が枯れや損傷から回復し、環境ストレスに耐える力―を活かすため、ルーシーさんはできるだけ手を加えずに見守っています。 

ピーターストンティー お茶の種(2025年5月)

サイト内関連記事「世界のお茶の生産状況」「一人当たりのお茶の消費量」「お茶の種類 イギリス スコットランド 紅茶」「ピーターストンティー(イギリス ウェールズ)

注1:
The Food and Agriculture Organization of the United Nations
http://www.fao.org/home/en/
INTERGOVERNMENTAL GROUP ON TEA
TWENTY-THIRD SESSION
Hangzhou, the People’s Republic of China, 17-20 May 2018
EMERGING TRENDS IN TEA CONSUMPTION: INFORMING A GENERIC PROMOTION PROCESS
III. UNTAPPED OPPORTUNITIES IN TEA MARKETS AT INDIVIDUAL AND GLOBAL LEVELS
Fig. 6: Top per capita tea consuming countries in 2016
http://www.fao.org/3/MW522EN/mw522en.pdf
参照:
大森正司、阿南豊正、伊勢村護、加藤みゆき、滝口明子、中村羊一郎編(2017) 茶の事典 初版第一刷 朝倉書店
ティーピッグズ, ルイーズ・チードル+ニック・キルビー著、伊藤はるみ訳(2015)世界の茶文化図鑑 原書房
Louise Cheadle and Nick Kilby of teapigs. (2015), THE BOOK OF tea, London: Jacqui Small LLP
Helen Saberi (2010), Tea A Global History: Reaktion Books Ltd.
荒木安正、松田昌夫著(2002) 紅茶の事典 初版 柴田書店
角山栄著(2018) 茶の世界史 改版再版 中央公論新社
磯淵猛著(2008) 紅茶の教科書 初版 新星出版社
磯淵猛著(2000) 二人の紅茶王 初版 筑摩書房
W.H.ユーガース(著) 杉本卓(訳) ロマンス・ブ・ティー 緑茶と紅茶の1600年 初版 八坂書房
「世界の歴史」編集委員編(2009)もういちど読む山川世界史 1版 山川出版
Tregothnan トレゴスナン https://tregothnan.co.uk
Tea Gardens of Scotland https://teagardensofscotland.co.uk
Facebook https://www.facebook.com/teagardensofscotland
pekoetea https://www.pekoetea.co.uk
The Tea Gardens of Scotland https://scottishteafactory.co.uk
Peterstone Tea https://peterstontea.com/

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