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特集

お茶研究家 松下智「世界のお茶」

本記事の執筆・写真提供:お茶研究家 松下智

はじめに
千年に及ぶ茶の歴史は、今や世界飲料となっている。その長い歴史と共に、私達には忘れ去られたことも多いのではないか。この辺でお茶について、復習するのも意義があることでないかと思う。

茶の種類の多いこと
長い歴史と共に、多種多様な茶が作られ世に出されているが、その根源については、中国に起因するが、その中国も長い歴史と共に変化しており、中には消失したものもあり、その歴史は充分な説明はできかねるものもある。
緑茶は、中国を中心として、韓国、日本に伝わり、現在も発展しつつ各種多様に分化しており、緑茶としても百種以上にもなると思われる。中国の緑茶からインドに渡り、紅茶となり、スリランカ、近年ではアフリカのケニア、東南アジアのマレーシアなどでも作られ、緑茶より国際性のある紅茶として発展している。

紅茶、緑茶、磗(だん)茶  写真提供:松下智

さらに、緑茶、紅茶と遠方の国や地域、特にシベリア、アラスカ、モンゴル、チベットに届ける茶として、磗茶(だんちゃ)が作られており、この磗茶も多様な形態の茶となっている。

磗茶を砕くモンゴルの女性 写真提供:松下智

多種多様なお茶飲み風景
世界でお茶を最初に飲んだのは、茶の産地と共に中国であり、その最初の飲み方は「擂茶(すりちゃ・れいちゃ Leicha)」と言われている。
漢文化の栄えた長安方面へ送られたのが、碁石茶であり銭団茶である。湖南省西武産地、武陵山に住む少数民族「瑤族(ヤオ Yao)」の作る茶が、小形化した碁石茶となって北方の漢族に送られたわけである。
この茶を粉末にして飲んだのであり、この飲み方が日本へも「栄西禅師」によって伝来されたわけである。

中国の擂(すり)茶 写真提供:松下智

この粉末茶「抹茶」が、日本では茶道文化である。茶道文化の茶以外でも、愛知県の尾張地方の津島市周辺の農家では、朝晩、野良仕事の一休みに抹茶を楽しんでいる。

愛知県尾張地方 日常の抹茶  写真提供:松下智

一方、お茶を飲む器としての「茶碗」は文字通り、お茶を飲む器であって、茶碗でご飯は食べない。日本ではいつしか茶碗でご飯を食べており、この由来を訪ねるのも、歴史的に意義のあることではないかと思う。
日本の伝統的「茶碗」と中国の陶器の茶碗との歴史的関わりについても、広く民族的な研究を要することである。

中国四川省 茶碗でお茶を飲む  写真提供:松下智

紅茶産地のインドでは、歴史的には「ビンロー」が利用されており、お茶はイギリスの支配下になってからのようであり、お茶を飲むという姿ははっきりしない。
茶の歴史の浅いベトナムでは、ビンローに代わる茶の利用もあるが、生の茶葉をポットのお湯に詰め込んで、4から5分置いて飲んでいる。

ベトナム ポットに茶葉を入れる  写真提供:松下智

中国の南方、広東省と福建省の設置点、閩南(びんなん Banlam)地方では、急須の利用があり、この地方出身の「隠元禅師」が禅宗と共に、喫茶法も伝えており、日本の煎茶を飲む手法として、日本各地で愛用されている飲み方の一種である。
閩南:Banlamは閩南語の発音

日本の煎茶の原型福建省閩南の喫茶風景
写真提供:松下智

世界をつなぐティーロード
お茶の種類は、多様化しているが、最も飲まれているが紅茶である。中国からイギリスへ渡った「烏龍茶」がイギリスの植民地となったインドのアッサム地方で大々的に研究開発され、さらにスリランカ、近年ではアフリカのケニアでも紅茶が作られ、全世界に普及しており、世界の茶とは紅茶であるということでもある。

アッサムの茶畑 写真提供:松下智 インド

いずれにしても、中国で発生した茶が多様な姿となって、世界中に飲まれるようになった現在、日本の茶も和の精神が根底にあるわけで、世界に広める意義は充分にあると思う。

インドの路上の喫茶店 写真提供:松下智

おわりに
長い歴史と共に、中国に原産したと言われる茶も、千年余りの歴史と共に世界飲料となった現在、茶の種類は異なるけれども、茶には変わりないわけである。茶の持つ渋味タンニンの効用を再認識し、世界飲料と共に、世界の茶、世界の和、そして日本の茶道文化の真の姿を全世界にティーロードとして届けたいものである。

ティーロードお茶は世界をつなぐ 画像提供:松下智

*漢字の()内のひらがなは日本語読みで、アルファベットは中国語の発音pinyin(ピンイン)、またはその言語の発音です。

お茶研究家 松下智
松下氏は60年以上、国内外の茶産地を訪ね、お茶の歴史・喫茶文化など研究を続けています。愛知大学で教授を務め、退官後もお茶の原産地の研究を続け2010年には調査のためラオスを訪問しました。「日本名茶紀行」(雄山閣出版)、「茶の民族誌」(雄山閣出版)、「茶の原産地紀行」(淡交社)、アッサム紅茶文化史 (生活文化史選書)など、松下氏のお茶に関する著書は多数あります。

松下智氏
袋井市茶文化資料館(2021年12月)

1930年 長野県生まれ
1970年 茶の文化振興のために社団法人「豊茗会」を設立
1998年 愛知大学国際コミュニケーション学部教授に就任
2003年 O-CHAパイオニア賞 受賞/学術研究大賞 受賞
2016年 茶道具類・研究資料を静岡県袋井市に寄贈
2019年 ふじのくに茶の都ミュージアム客員研究員
2024年 全国税理士共栄会文化財団「人と地域の文化賞」
現在 ~ 松下コレクションを活かす会 名誉会長、袋井市茶文化資料館 名誉館長

現在、松下氏は袋井市茶文化資料館の名誉館長として土曜日に来館されています(来館されない日もあります)。袋井市茶文化資料館には松下氏がこれまでのお茶の調査・研究で収集した国内外の茶器、お茶、書籍、写真など約2千点が展示されています。
松下氏の来館日は静岡県袋井市茶文化資料館のサイトまたはFacebookでご確認下さい。
静岡県袋井市茶文化資料館
https://fukuroi-tyabunkashiryokan.jp

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