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アート&茶器

蘭字ラベル

CHAMART

お茶の輸出
幕末の嘉永6年(1853)に、アメリカ東インド艦隊司令長官ペリーが率いる軍艦が、浦賀(神奈川県横須賀)に来航し、江戸幕府に開国と通商を求めました。
安政5年(1858)、江戸幕府はアメリカと日米修好通商条約に調印し、神奈川(横浜)、長崎、新潟、兵庫(神戸)、函館の5港を開港し、本格的な外国貿易が始まります。当時、日本の主要輸出品は、「生糸」と「お茶」でした。お茶は、明治時代になり昭和初期まで、アメリカ、ヨーロッパそしてロシアや中東へも輸出されました。お茶は横浜や長崎から輸出されていましたが、明治32年(1899)に静岡県の清水港が開港すると、清水港からもお茶が輸出されるようになりました。

輸出用の茶箱に貼られたラベル
茶葉は木製の箱に入れられ、船で輸出されていました。この木製の箱は「茶箱」と呼ばれ、茶箱には蘭字と呼ばれるラベルが貼られていました。蘭字は商標ラベルであり、絵とお茶の種類や会社名など製品情報がデザインされた版画です。

中国から伝わった蘭字
日本茶の輸出を始めたのは、中国茶の輸出を手がけていたアメリカやヨーロッパの商人たちでした。そうしたことから、日本でも中国茶の輸送方法が取り入れられました。お茶を木箱に詰め、アンぺラというの草で編んだむしろに包み、側面に蘭字を貼りました。
中国語で「蘭」は西洋、「字」は文字を意味し、「蘭字」は業界用語で輸出茶ラベルの総称でした。

フェルケール博物館 アンペラで包んだ茶箱と蘭字 (2018年3月)

多種多様なデザイン
蘭字は色鮮やかで、デザイン性に優れています。茶園やティーカップなどお茶に関係するデザインだけでなく、富士山など日本らしい風景、異国情緒あふれる花や鳥、輸出先の好みや趣向を反映させたものなど、蘭字のデザインはさまざまです。

赤穂浪士・忠臣蔵で知られる大石内蔵助(くらのすけ)が描かれている蘭字もあります。
なぜ大石内蔵助なのか?
平野美術館の学芸員・平出実乃里氏は蘭字「RONIN」について以下のように考えています。
「憶測ですが、『蘭字RONIN』における大石内蔵助の起用は、アメリカ第26代大統領・セオドア・ルーズベルト大統領(1858-1919)の影響があるではないかと思います。
セオドア・ルーズベルトは、『忠臣蔵』や新渡戸稲造の『武士道』を愛読していたという話があり、当時、忠臣蔵はアメリカで少し知られた存在であったようです。
本作の蘭字はジョージメーシ社(アメリカの会社)のもので、ルーズベルト大統領の任期(1901-1909)と本作の制作年(1901)は重なっています」

平野美術館 特別展
「蘭字ー横浜開港と近代日本の輸出ラベル」
蘭字ラベル RONIN明治42年(1909)


平野美術館 特別展「蘭字ー横浜開港と近代日本の輸出ラベル」
蘭字ポストカード 作品名と制作年
上段左から:KEKKO 明治年間、FIRST STEAMER ZO 明治前期、KANNON 大正初期
中段左から:FIRST STEAMER ZO(かぼちゃ) 明治前期、RONIN明治42年(1909)、Mischief 明治末–大正初期
下段左から:THISTLE 明治中期、SIOUX 明治末–大正初期、BLUE JAY 明治44年以前(1911)
2022年6/11から8/14まで、静岡県浜松市の平野美術館で、特別展「蘭字ー横浜開港と近代日本の輸出ラベル」を開催しています。詳しくは→こちら


フェルケール博物館

静岡市のフェルケール博物館には、茶箱の蘭字ラベルが常設されています。常設展示はレプリカが多いですが、企画展では、オリジナルの蘭字が展示されることがあります。

フェルケール博物館 蘭字ラベル (2018年3月)

フェルケール博物館のショップには、蘭字の色紙とポストカードが販売されています。
蘭字の色紙やポストカードを額に入れて飾ると、アート作品のようになります。またYahooオークションでは、時々蘭字ラベルが出品されています。


写真、右上のTEA MASTER富士山の蘭字はYahooオークションで購入したものです。
それ以外の、蘭字の色紙とカードは、フェルケール博物館のショップで購入しました。

茶箱絵
お茶の輸出が始まった当初は、茶箱のラベルには花鳥や茶園が描かれた木版画のみで、文字などの情報は書かれていませんでした。

平野美術館 特別展
「蘭字ー横浜開港と近代日本の輸出ラベル」
茶箱絵 秋草に鷹図(たかず) 明治

平野美術館 特別展
「蘭字ー横浜開港と近代日本の輸出ラベル」
茶箱絵 茶摘み図 明治初期


サイト内関連記事「船と港の博物館 フェルケール博物館

参照:
井手暢子(1993) 蘭字―日本近代グラフィックデザインのはじまり 電通
五味 文彦・鳥海 靖(2009) もういちど読む山川日本史(第1版) 山川出版社
高野實、谷本陽蔵、富田勲、中川致之、岩浅潔、寺元益英、山田新市 執筆 (社)日本茶業中央会監修 (2005) 緑茶の事典 改定3版 柴田書店
一般社団法人清水港湾博物館 フェルケール博物館
https://www.suzuyo.co.jp/suzuyo/verkehr/
公益財団法人 平野美術館 http://www.hirano-museum.jp/
公益財団法人 平野美術館 特別展「蘭字ー横浜開港と近代日本の輸出ラベル」
会期2022年(令和4)年6月11日(土)~ 8月14日(日)
リーフレット・出品作品目録

 

写真下左:平野美術館 特別展「蘭字ー横浜開港と近代日本の輸出ラベル」
蘭字ラベル TOYO布袋 明治31年(1898)
写真下右:フェルケール博物館 (2018年3月)