MENU

LEARN

お茶の歴史

日本のお茶の歴史5「18〜21世紀」

日本のお茶の歴史5「18〜21世紀」

幕末から明治、大正、昭和へ
お茶の輸出
幕末の1858年に日本はアメリカと日米修好通商条約を結び、翌年にはオランダ、ロシア、イギリス、フランスとの間にも通商条約が結ばれました。そして再び日本茶が海外へ輸出されるようになりました。お茶は生糸に並ぶ日本の主要輸出品でした。
緑茶のほか、紅茶の製造・生産研究のため、1876年に日本政府は多田元吉(1829-1896)をインドに派遣し、その後、日本において紅茶の生産がさかんになりました
明治時代(1686-1912)になると、お茶の輸出量は増加し主にアメリカへ輸出されました。

輸出用の茶箱に貼られた蘭字
フェルケール博物館 展示物の茶箱(2018年3月)

お茶生産の機械化
当時、お茶の生産作業は過酷な労働でした。特に横浜など開港場の外国人居留時では、海外に輸出するお茶は品質劣化を防ぐために再製火入れ作業をしていました。長時間、高温の作業場で女工たちが釜で使い手攪拌作業を行っていました。原崎源作(1858-1900)は再製機械を発明しました。また高林謙三(1832-1901)は製茶の機械化を実現しました。

入間市博物館アリット 高林謙三に関する展示物(2018年2月)

1894年に大谷嘉兵衛(1844-1933)によって、日本製茶株式会社が設立されると、日本茶の輸出は一層広がりました。お茶はロシアへも輸出され、北アフリカ諸国やアフガニスタンへの輸出も試みました。

展示物 松阪市出身の大谷嘉兵衛の写真(2018年6月)

1906年に岡倉天心(1862-1913)がThe book of teaを出版し、茶道の精神が世界に紹介され広く知られました。
1908年には杉山彦三郎(1857-1941)が寒さに強く生産性に優れた「やぶきた」品種を開発すると、やぶきたの生産が主流になりました。

戦後、昭和(1926-1989)
日本では旅館やレストランなどでお茶はサービスとして提供されてきたこともあり、多くの人たちは「お茶はただで飲むもの」という意識を持っていました。
昭和56年(1981)に無糖の烏龍茶の缶入り飲料が商品化されました。缶入り烏龍茶は若い女性たちの間で人気になり、お金を出してもお茶が売れることが実証されました。
1980年頃から飲料メーカーなどが緑茶を製品として販売する研究を開始しました。緑茶の抽出液の酸化や加熱殺菌により香味や水色が変化するため製品化は困難でした。研究が進められ、ビタミンCを調合することなどにより緑茶の抽出液の酸化防止が可能となり、昭和60年(1985)に世界で初めて緑茶飲料が商品化されました。

平成(1989-2019)、令和(2019-)
ペットボトルのお茶

平成になりペットボトルのお茶が現れました。そして、緑茶、ほうじ茶、烏龍茶などさまざまなお茶のペットボトル飲料が販売されるようになり、お茶は身近なものになりました。
世界農業遺産
2013年に「静岡の茶草場農法」は国際連合食糧農業機構の世界農業遺産に認定されました。茶業のみの世界農業遺産は、日本(静岡県)、中国(福建省、雲南省)、韓国(河東郡)の4箇所のみです。
多種多様なお茶
炭酸入りの瓶入りのお茶や、時間をかけてお茶の旨味成分を抽出する高級ボトリングティーが商品化されています。

ふじのくに茶の都ミュージアム ショップ
ボトリングティー(2020年6月)

茶業の厳しい現状
ペットボトルや多種多様なお茶により、昔とは違う形でお茶は身近な飲み物になりました。その一方で茶葉を購入し、急須でお茶を淹れて飲む人は減る傾向にあります。
茶業の新規就農者、新しいお茶づくりをする生産者や茶業従事者がいます。その一方で、お茶の卸売価格の変動、生産者の高齢化や後継者不足により廃業や茶園の耕作放棄地が増えてます。また、2022年は燃料費や肥料の値上がりにより、生産者の経営状況は厳しくなっています。

注:お茶は植物としては「チャの木」または「チャ」とカタカナで表記されます。「チャ」はツバキ科の常緑樹で学名はCamellia sinensis (L.) O.Kuntezeです。
本サイトではカタカナは使わず「お茶の木」「お茶」と表記しています。

参考文献:
社団法人農山漁村文化協会編集(2008) 茶大百科 I歴史・文化/品質・機能性/品種/製茶(第1刷) 社団法人農山漁村文化協会
大森正司 ・阿南豊正 ・伊勢村護 ・加藤みゆき ・滝口明子 ・中村羊一郎編 茶の事典 朝倉書店
高野實、谷本陽蔵、富田勲、中川致之、岩浅潔、寺元益英、山田新市 執筆 (社)日本茶業中央会監修 (2005) 緑茶の事典 改定3版 柴田書店
橋本素子著 日本茶の歴史 (茶道教養講座) 淡交社(平成28年)初版
森田悌(2018) 日本後紀(中)全現代語訳(第8刷) 講談社学術文庫
五味文彦・鳥海靖編(2010) もういちど読む山川日本史(第1刷) 山川出版社
ヘレン・サベリ著 竹田円訳(2014) お茶の歴史(第1刷) 原書房
世界文化社編(2011) 茶の湯便利手帳3 茶の湯基本用語集(第1刷) 世界文化社
角山栄著(2018)茶の世界史(改版) 中央新書
松崎芳郎著(1992) 年表 茶の世界誌(第1刷)八坂書房
高橋忠彦(平成25) 茶経・喫茶養生記・茶録・茶具図賛―現代語でさらりと読む茶の古典(再版) 淡交社
原崎郁夫(2020) 原崎源作 私の茶業生活 原崎郁夫
黄檗宗大本山萬福寺 https://obakusan.or.jp