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お茶の歴史

日本のお茶の歴史4「17世紀」

日本のお茶の歴史4「17世紀」

江戸時代(1600-1868)
明の煎茶法を伝えた隠元
江戸時代初めに、明の僧侶・隠元(1592-1673)が来日し、煎茶法や急須の原型となる紫泥大茶罐や普茶料理など新しい様式や文化を日本に持ち込みました。隠元は日本黄檗宗(おうばくしゅう)の開祖であり、黄檗宗萬福寺を開きました。

京都萬福寺(2019年5月)

隠元が伝えた煎茶は、茶罐で湯を沸かし茶葉を入れ、茶葉を煮出して飲む方法でした。普茶料理の普茶とは「普(あまね)く大衆に茶を施す」と言う意味です。
売茶翁の名で知られる、黄檗宗の僧侶だった高遊外(1675-1763)は、京都の東山に通仙亭を開き、茶道具を担いでお茶を売りながら禅の精神を説きました。

京都萬福寺 普茶弁当(2019年5月)

蒸し製緑茶の発明
1783年に宇治田原の篤農家永谷宗円(1681-1778)が茶葉を蒸して揉む「青製煎茶製法」を発明し、日本の緑茶が生まれました。摘み取った新芽を蒸して冷却し、ほい炉の上で手で揉み、火力で乾燥させます。これにより出来上がりのお茶の水色は青味がかった緑色になり、青製と呼ばれるようになりました。

永谷宗円生家 永谷宗円肖像画(2018年10月)

永谷宗円生家の製茶に使われた焙炉(ほいろ)跡(2018年10月)

このお茶は現在の煎茶です。抹茶は茶葉を蒸した後、乾燥します。その一方で煎茶は蒸した後、茶葉を揉むことでお茶の成分が浸出しやすくなり香りも良くなります。この製法が開発されるまでのお茶は、煮製か釜炒り製で日干しをした黒製と呼ばれていました。そして、江戸日本橋の山本山は、このお茶を急須で売れるお茶として売り出しました。

全国各地に広がるお茶
それまで栂尾茶が本茶とされていましたが、16世紀後半ごろから栂尾茶が衰退し、それに代わり宇治茶が台頭していきました。宇治は交通の便が良く丘陵地域が広がりお茶の生産量が高く、そして豊臣秀吉(1536-1598)が宇治を保護されていました。また薩摩、美濃、遠州、土佐など地方でも、お茶の栽培が広がっていきました。

茶の湯
千利休(1522-1591)の死後、古田織部(1544-1615)や小堀遠州(1579-1647)ら大名茶人により、大名や武将の間に茶の湯が広がりました。諸大名は領内の経済基盤を堅実にするため、米や雑穀に加え現金作物としてお茶の栽培も奨励するようになりました。またお茶の木は防風林として竹や椿と共に植えらるようになりました。17〜18世紀には、津軽藩、津和野藩、琉球藩、秋田藩などにもお茶が栽培されていました。

お茶壺道中
江戸時代、徳川幕府のもと、将軍家が使う宇治茶を茶壺に入れて江戸へ運ぶために行われた搬送儀式です。毎年春になると、江戸から将軍家の茶壺が届き、お茶を茶壺に入れ江戸に運びます。お茶壺道中は数名で運んでいましたが、徐々に警護役人の人数が増え、17世紀後半から18世紀初めには盛大になり10万石の大名行列に匹敵する格式が高く権威を持つようになりました。
しかし、お茶壺道中が通る際は、子どもたちの戸口の出入りや凧揚げ、屋根の置き石なども禁じられました。沿道の住民にとってお茶壺道中は負担大きいものでした。お茶壺道中が通る際の子どもたちの慌ただしい様子を唄ったのが童謡「ずいずいずっころばし」だと言われています。

水茶屋と看板娘
お茶は庶民の間にも広がり、江戸や東海道の街道筋にはお茶を出す茶屋が現れました。
お茶を販売する店を「葉茶屋」と呼び、お茶や菓子を出す店を「水茶屋」と呼んでいました。水茶屋で働く給仕の女性が美人の場合、その店の看板娘として評判になり、看板娘目当てでくる客が多くいました。水茶屋の笠森お仙、難波屋おきた、高島屋おひさは人気が高く、浮世絵のモデルにもなりました。

日本茶の輸出
16世紀大航海時代になり、ヨーロッパの探検家や宣教師が日本へ訪れるようになりました。ヨーロッパの人々はお茶に出会い、1610年にオランダ東インド会社がバンタム(インドネシアのジャワ島)経由で日本の緑茶をヨーロッパに輸出しました。しかし、1630年代に幕府は鎖国政策を強化し、朝鮮と琉球からの船、そして中国船とオランダ船のみが長崎の出島に来航することを許可しました。

参考文献:
松崎芳郎著(1992) 年表 茶の世界史(初版) 八坂書房
工藤佳治主編者(2007) 中国茶事典(初版) 勉誠出版
社団法人農山漁村文化協会編集(2008) 茶大百科 I歴史・文化/品質・機能性/品種/製茶(第1刷) 社団法人農山漁村文化協会
大森正司、阿南豊正、伊勢村護、加藤みゆき、滝口明子、中村羊一郎編(2017) 茶の事典 初版第一刷 朝倉書店
高野實、谷本陽蔵、富田勲、中川致之、岩浅潔、寺元益英、山田新市 執筆 (社)日本茶業中央会監修 (2005) 緑茶の事典 改定3版 柴田書店
橋本素子著(平成28年) 日本茶の歴史 (茶道教養講座) (初版) 淡交社
高橋忠彦(平成25) 茶経・喫茶養生記・茶録・茶具図賛―現代語でさらりと読む茶の古典(再版) 淡交社
五味文彦・鳥海靖編(2010) もういちど読む山川日本史(第1版) 山川出版社
「世界の歴史」編集委員会編(2009) もういちど読む山川世界史(第1版) 山川出版社
ヘレン・サベリ著 竹田円訳(2014) お茶の歴史(第1刷) 原書房